映画で自分語りしまくる書庫、「この映画のソコが凄い!」を更新します。
今回は1976年(昭和51年)に公開され、横溝ミステリー・ブームを巻き起こした『犬神家の一族』の凄い部分を熱く語りたいと思います。
『犬神家の一族』は、あの角川映画の第一弾として制作・公開されました。
角川書店、自社の本を売る為に企画された作品なんですが、あまりにも映画的魅力に溢れた作品でしたね。
懐かしい角川映画のオープニングタイトルを貼っておきます。
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公開当時の関西版新聞広告です。
角川映画の特徴は、その徹底した宣伝戦略。あらゆる分野で作品を宣伝しまくる。
私は公開当時、小学校の5年生ぐらい。
まだまだ怪獣映画に夢中になっていた頃なんですが、この作品の存在は当然知っていたし、気にはなっていました。
宣材でこの作品のトレードマークのようになっている、湖からにょっきり突き出た人間の両足。
この両足のオブジェのような素晴らしさに、当時の私は気付かなかった(汗)・・・。
「なんか変なとこで逆立ちしとんなぁ・・・」くらいのもんでね(爆汗)・・・。
公開当時、同じクラスの隣の席に座る女子とよくおしゃべりしてたんですよ。
その女子がね、ある日、両親と気持ち悪い映画を観たと私に話しかけてきてね。
その子いわく、「人が変な殺され方ばっかりされて、髪の毛ボサボサの名探偵が事件を解決しやんねん」と。
その時にね、普段は大人しいその女子の目が異様にギラギラ輝いていたのが印象的でね・・・その子の話を聞いている私の目も同じように輝いて、なんかワクワクしてたと思うんですよ・・・。
そんなクラスメートから聞いた『犬神家の一族』という映画は私の脳裏に残った。
そして一年後、角川映画の手を離れて、市川崑監督・石坂浩二さん演じる金田一耕助コンビの横溝ミステリーは東宝でシリーズ化され、第2弾『悪魔の手毬唄』が公開された。
その『悪魔の手毬唄』をね、私のオカンが友達と観て来たと言うので、語って聞かせてもらった。
私のオカンの目も私の目もギラギラしてたと思う。
それはなぜかというと、人間には、猟奇的なモノに惹かれるスイッチがあるからだと思うんですよ。
そんな時期に、テレビ放映で『犬神家の一族』を観た私はぶっ飛んだ。
あまりにも『犬神家の一族』が魅力的すぎて・・・。
あまりにも美しい大野雄二の”愛のバラード”と個性的なタイトルバックで始まる『犬神家の一族』
ある大物製薬王の死で始まるんですが、まず私が驚いたのが、舞台が終戦直後の昭和20年代なんですね。
日本の旧家で巻き起こる、愛憎入り乱れるドロドロとした遺産争いを描いた作品なのに、その様式美を湛えたモダンな映像作りの為に、古い要素をまったく感じさせない。
そこにあるのは横溝ミステリー&市川崑ワールドなんですよ。
『犬神家の一族』 ”愛のバラード”
袴姿にヨレヨレの帽子姿でいて、淡い茶髪のボサボサ頭という石坂浩二演じる金田一耕助だって、観ているこちらの時代感覚が麻痺しそうなキャラなんですよね(笑)・・・。
(このシリーズの準レギュラーだった坂口良子の女中も最高に可愛い)
とにかく石坂・金田一耕助は、ぬるい温泉にそ~っと浸かるかの如く、複雑怪奇な人間関係の中に入り込んでいくんですよね・・・。
金田一耕助は、遺産相続争いにまつわる連続殺人事件に首を突っ込む事になる。
この作品でまず強烈なキャラが、ゴムの仮面で顔を隠す、佐清(スケキヨ)さん。
戦争で顔にどえらい傷を負ったこの人が序盤で仮面をめくるシーン・・・私は数日、怖くて寝れんかった。
この作品、顔を隠した男がふたりいるという設定が、事件の謎を解く大きなカギでした。
もうね、この佐清というキャラがいるだけでこの作品のミステリーは極上のモノになっている。
佐清の存在自体が猟奇的な魅力に溢れている。
私がクラスメートの女子と、なぜ『犬神家の一族』の話題になったのかというと、公開当時、私は大阪の寝屋川市の小学校に通っていて、ひらかたパークのある枚方市に近い。
だから遠足などで、ひらかたパークの名物であった”大菊人形展”を見学させられるんですよね。
私はその菊人形がキモくて大嫌いやというネタをふったら、『犬神家の一族』の話に発展したんよ(爆)・・・。
この映画の”ソコ”が凄い!!・・・私のクラスメートの女子が言った、「変な殺されかた」が凄い!!
この映画の最大の魅力とは、モダンなミステリーに華を添える”殺人美学”に尽きると思う。
殺人を芸術的な域まで高めるという意味では、このシリーズとダリオ・アルジェントの殺人描写は双璧だと思う。
菊人形の首とすげ替えられた人間の生首・・・なぜそんな手間のかかる事をするのかという部分に、ちゃんと動機があるから”ソコ”も凄いし、金田一が言う、「あの菊人形の生首を見て、一番驚いたのは犯人でしょう」というミステリー上のトリックも凄すぎる!!
このドロドロとした作品に、本当の華を添えた島田陽子さんはマジで美しかった。
この人の存在が遺産に絡む連続殺人事件の動機になってるんですが(爆汗)・・・。
この島田陽子さん演じる珠世だけは、顔を隠したふたりの男を見分ける事ができるんですよね・・・。
愛する男を見間違える事はない。
「犯人とは別の人間が、殺人の後始末をしているというのが、この事件の特徴なんです」という難事件を見事に解決する金田一耕助。
後の横溝ミステリー・ブームにより、いろんな俳優が金田一耕助を演じる事になるんですが、やはり私は世代的に石坂浩二さんの金田一耕助が一番好きですね。
事件を推理する為に、事件に関わる人たちの中に身を投じる金田一耕助は、最後には人々の心を繋いで去っていく。
寂しいような、優しい余韻をいつも作品に与えてくれた金田一耕助は、石坂浩二さんだけやった気がします。
そんな名探偵が活躍するには、科学捜査の遅れた昭和20年代がピッタリでもあるんですよね。
私はこの作品、時代を超えた邦画の名作やと思います。
犯人がわかっていても、何度見ても面白い。
この作品、市川崑&石坂浩二さんのコンビでリメイクされたんですが、全くと言ってもよいほど、脚本がいじられていなかった。
制作サイドの要望やったそうですが、それほど完成度が高い作品なんですよね。
ぶっちゃけ、この作品の犯人の動機って呆れるほどぶさいくで自分勝手なんですが、すべてを美しいオブラートで包んでしまう様式美とモダニズムが”凄い”・・・。